まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

紹介

不満研究事件・「『わが闘争』論文」について

さて以前のエントリで述べた不満研究事件だが、このプロジェクトのメンバーのプラックローズとリンゼイが書いた本が翻訳されるという(原著についてもわたしは未読)。この本が話題になる理由の一つには彼らがこの事件を起こしたからだろう。しかしわたしは…

新刊(共著本)のご案内

論文を寄稿した本が刊行されました。Species Problems and Beyond (Species and Systematics)CRC PressAmazonわたしの章ではこれまで刊行した拙論の議論を踏まえて「種問題がどこまで重要か」という問いを提起しています。ご笑覧ください。

不平不満研究事件について

不平不満研究事件(「フェミニズム版ソーカル事件」と呼ばれることもある)について、ラゲルスペッツ(Lagerspetz)という社会学者の論文を読んだので、それを簡単に紹介したい*1。 事件の概要 不平不満研究事件(The Grievance Studies Affair)とは、2018…

なぜ同性婚だけがうまくいったのか

米国の政治で議論される問題の中には「文化戦争」(culture war)にかかわるものがある。これは、人工妊娠中絶や銃規制の是非といった、経済や外交とは直接関係ないが、有権者のアイデンティティや価値判断にかかわる問題である。現在の米国政治では左右両派…

拙著記念オンラインイベントのアーカイブ販売

拙著『種を語ること、定義すること: 種問題の科学哲学』について以前岡西政典さん・三中信宏さんと行った本屋B&Bでのオンラインイベント の画像と音声のアーカイブ販売が行われています(8月末まで)。bookandbeer.com 写真はB&Bさんでの販売棚です。ご興味…

「現代ビジネス」に寄稿

拙著プロモーションの一環で、哲学と科学の関係についての小文を「現代ビジネス」に書きました。 gendai.ismedia.jp

本が出ます

師走になりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。さてこのたび単著を出版することになりました。種を語ること、定義すること: 種問題の科学哲学作者:網谷 祐一発売日: 2020/12/15メディア: 単行本この本のテーマは種問題です。分類の基本単位である…

AIについての三冊

「AI・ロボットの倫理」を扱う授業を行う関係でAI関係の本をいくつか読んだので紹介しよう。わたしが読んだのはAIを自分で作ったり活用する本(例えば機械学習のしくみを学ぶ本)ではなくて、テクニカルな詳細にはたち入らずにAIの歴史やAIの問題を紹介する…

陰謀論と政治

陰謀論を扱った二つのポッドキャストを聞いた。一つは陰謀論と政治に関わるFivethirtyeight(FTE)のポッドキャストで、もうひとつは地球平面説を扱ったScientific Americanのポッドキャスト。このうちだと前者の方が紹介する内容が多いので、以下ではFiveth…

研究者のためのメンタルヘルスマネジメント:7つのコツ

という記事が『ネイチャー』に載っていたので簡単に紹介。著者はスペインの臨床心理学者。書いてあることはそれほど目新しいことではないかもしれないが、現下の状況でここで確認・共有することには意義があるだろう。 期待を下げる:授業がなくなった大学に…

科学者の歴史についての四冊

教えている「科学史」の授業で、どのようにして科学者が今のようなあり方になってきたのかについて講義した(専門用語では「科学の制度化」という)ので、その準備に使った四冊を紹介。科学の真理は永遠に不変なのだろうか (BERET SCIENCE)作者:中根 美知代,…

研究費の配分をクジで決める

研究費の配分を(一部)くじで決めているという『ネイチャー』誌の記事を読んだ。これを行っているのはニュージーランドの健康科学評議会(Health Research Council of New Zealand)という政府の組織で、2015年にくじを導入した。くじで研究費の配分を決め…

英語の固有名詞の発音の表記に迷ったときに

https://youglish.com/ 英単語の発音をその単語が実際に発音されているYouTubeのビデオから取り出してくることで教えてくれるサイト。固有名詞の発音を知りたい時には便利そう。

研究資金の減少は、税金の無駄使いを加速している

Scientific AmericanのポッドキャストでRichard Harrisのインタビューをしていた。彼はNPRの科学リポーター(science correspondent)で、Rigor MortisRigor Mortis: How Sloppy Science Creates Worthless Cures, Crushes Hope, and Wastes Billions作者: R…

米保守派の研究費たたき

最近あった保守派からの科研費批判だが、米国でも保守派の政治家が科学者の研究費を批判することはよく見られる。たとえばジョン・マケインが共和党の予備選挙の運動でYouTubeに出た時にはモンタナのクマのDNAの研究を批判している(1分50秒ぐらいから)。 y…

外的世界の証明(抄)

授業で使うためにムーアの有名な論文「外的世界の証明」(pdfファイル)のキモとなるところの翻訳を作ったのでご笑覧ください。 例えば、わたしは今、二本の人間の手があることを証明できる。どうやってか。それは二つの手を上げて、右手でジェスチャーをし…

家事分担の進化ゲーム

家事分担は結婚している夫婦の間で頻繁に問題になる事柄の一つだ。家事の負担は多くの場合妻に偏っており、妻はそれに不満を感じていることが多い。これは女性がフルタイムの仕事を持つことが例外ではなくなった現在でもそうだ。どうしたこういうことが生じ…

才能が必要と考えられている分野ほど女性研究者の比率が低い

という論文が「サイエンス」誌に掲載された(リンク)。STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)といういわゆる「理系」の分野では、研究者に女性が占める割合が低いといわれてきた。また社会科学系・人文系の分野でも女性研究者の比率が少な…

哲学専攻は経済的に見合う投資である

と主張する記事があったので紹介。この記事では、PayScaleというサイトの調査を元に、アメリカの大学の学部卒業生を対象にして(したがって大学院に入学した人は入っていない)、専攻によって卒業後の収入がどのくらいになるか、また高卒で社会人になった場…

人種と知能(2)

さて引き続き人種と知能についてだが、今回はニコラス・マッキントッシュが書いた知能についての入門書であるIQ and Human Intelligence作者: N. J. MacKintosh出版社/メーカー: Oxford Univ Pr発売日: 2011/04/30メディア: ペーパーバック購入: 1人 クリッ…

人種と知能(1)

知能の勉強を細々と続けているが、この分野でいつも大きな議論になるのが、人種と知能の関係だ。このテーマはきちんとしたリサーチに基づかないことをうっかり述べてしまうと影響がきわめて大きいので、現在の研究でどういうことがわかっているのか(わかっ…

Krashenの議論

第二言語習得論の勉強を続けている関係で、Stephen Krashenの"Principles and Practice in Second Language Acquisition"(pdf)を読んでいるが、第二章で自分の仮説をサポートする仕方が雑すぎる。Krashenはこの章で第二言語学習に関するいくつかの有名な仮…

どういうときに創造的なアイデアが浮かぶか

ということをコンピュータ科学を例にしてThagardと共著者がここで書いている。この論文ではCrossroadsというACM (Association for Computing Machinery、コンピュータ科学分野の国際学会)が発行している学生のためのオンライン雑誌に掲載されたコンピュータ…

How Languages Are Learned:第二言語習得理論について

前のエントリ、つまりHow Languages Are Learned (Oxford Handbooks for Language Teachers)作者: Patsy M. Lightbown,Nina Spada出版社/メーカー: Oxford Univ Pr発売日: 2013/03/21メディア: ペーパーバック クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見…

How Languages Are Learned:早期教育について

How Languages Are Learned (Oxford Handbooks for Language Teachers)作者: Patsy M. Lightbown,Nina Spada出版社/メーカー: Oxford Univ Pr発売日: 2013/03/21メディア: ペーパーバック クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見るを読んだ。これは欧…

なぜ・何を・どうやって科学者に科学哲学を教えるのか

という論文を読んだ(リンク)。著者はスウェーデンの科学哲学者で、科学哲学が科学者及びその卵である理系学生に貢献できる理由と方法について書いてある論文だ。 なぜ教えるのか 科学者やその卵である理系の学生にに科学哲学を教えるべき理由として、著者…

p値よりも信頼区間を

とLaTrobe大学の心理学者Geoff Cummingsが以下の動画で述べている。心理学では(もちろん心理学だけではないが)ある仮説を検証するときによくp値を用いる。これは帰無仮説が正しいとしたときに手元の標本統計量が得られる確率である。この値が0.05というマジ…

研究のコスト・リターン・リスク

千住淳氏の社会脳とは何か (新潮新書)作者: 千住淳出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/08/10メディア: 新書この商品を含むブログ (1件) を見るを読んでいると、研究のポートフォリオという考え方が書かれてあって少しおもしろかったので紹介(199ff.)。科学…

科学、科学の哲学、自然の哲学

生物学の哲学者Peter Godfrey-SmithがDarwinian Populations and Natural Selection作者: Peter Godfrey-Smith出版社/メーカー: Oxford University Press, U.S.A.発売日: 2011/05/15メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログを見るの冒頭で、科学と科学…

ロブ・ルイス先生のインタビュー@SPring-8

前にSPring-8でモナシュ大学・サスカチュアン大学のロブ・ルイス教授のインタビューの通訳の仕事をしたのですが、それがアップロードされているのに今日気づきました。SPring-8が医学分野でどのように役立っているかおもしろいお話でした。あとインタビュー…