まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

言語の脳科学

を読んだ。

(目次)
1. 脳‐心‐言語
2. 獲得と学習―人間はチンパンジーとどこが違うか
3. モジュール仮説―言語はどこまで分けられるか
4. 普遍文法と言語獲得装置―言語学とは何か
5. 言語の脳科学―言語はどのようにして調べられるか
6. 言語の機能局在―言語に必要な脳の場所;言語野と失語―左脳と右脳の謎
7. 自然言語処理人工知能の挑戦;言語入力の脳メカニズム―単語から文へ
8. 文法処理の脳メカニズム―文法は脳にある
9. 手話への招待―音のない言葉の世界へ
10.言語獲得の謎―言葉はどのようにして身につくか
11.感受性期とは何か―子どもは言語の天才

著者は言語学者で、この本は、言語学脳科学の交差点となる分野の入門書。11の章に分けてこの分野の基本的な知識を紹介する。350ページ弱の本で11章の様々なトピックに分けて論じているから、比較的気軽に読める。著者は基本的にチョムスキーに与するので、それ以外の立場をとる人からすると偏っていることになるが、著者の立場は本の中で明示されているのであまり気にならないし、自分の立場をはっきり述べていることが筆致に勢いを与えている。また、ピンカーらの批判ものっているので、多面的にこの分野の知識をつけるという意味では、ピンカーらの本を読んだ人にもよいのではないか。進化についての記述は微妙だったが、この本は入門書としてはいい本だと思う。

この手の本を読んでいつも印象に残るのは、言語障害の「目の細かさ」、つまり言語にまつわる能力のindividuationの細かさである。たとえば、伝導失語という障害。この障害の患者は、すぐ前に聞いた文を復唱できない(p.173)------言語にまつわるほかの能力に目立った障害がなくても、このことだけができないのだという。この手の話はHow the mind worksの冒頭にも「つかみ」として出てきたが、われわれの知的能力が本当に細かいピースからできていることを思い起こさせる。