まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

ぼくはこんな本を読んできた(ここ一ヶ月で)2

人間性はどこから来たか―サル学からのアプローチ (学術選書)

人間性はどこから来たか―サル学からのアプローチ (学術選書)

ヒトの進化についての教科書。記述がやや個性的。人とサルの連続性と違いをさまざまな点から述べており、参考になる。また参考文献を豊富に与えている点もよい。ただ教科書風の簡潔な記述のせいか、適応物語を天下り式(適当な証拠を明示せずに)与えているところがある(例:17頁)。また、著者の政治的意見が一方的に与えられる箇所もままみられる。例えば著者は「養子をとるのはペットを飼うのと同じ」といって非難を浴びたと述べているが、さもありなんという感じだ。政治的なhot button issuesについて語るときに大事なのは、ただ科学的真理だけを語ることではない。もう少し丁寧に記述するべきだとおもう(某所でのコメントを考えると「おまえがいうな」という声が聞こえてきそうだが)。

二本指の法則―あなたの健康状態からセックスまでを語る秘密の数字

二本指の法則―あなたの健康状態からセックスまでを語る秘密の数字

人差し指と薬指の長さの比が、心臓発作の発症年齢からサッカーの才能までヒトのさまざまな形質を指し示す鍵になっていることを論じた本。この2D4D比はヒトの胎児が浴びたテスタストロンとエストロゲンの量を指し示しており、そしてこれらのホルモンは多様な形質に影響を与えるという。たとえば薬指が人差し指より長い「カサノヴァ型」の手をもつひとは、胎児時にテスタストロンを多量に浴びているので心臓発作を起こしにくく、体力的にきついトレーニングに耐えることができ(るので、スポーツが得意で)、退屈さにすぐ飽き、(男性なら)精子の量が多く、感染症に弱い。他の書評も触れていたが、こんな身近なことがこれだけ多くの他の形質の指標になることは驚きだ。しかしこの本はこのおもしろい題材を十分に生かし切れていない。これは著者の書き方の問題でもあるし編集の問題でもある。例えばサッカーの才能と2D4D比の話(ブラジルの一流選手は極端に2D4D比が低く薬指が長い選手が多い)は「つかみ」としておもしろそうなのに本の最終部におかれている。著者の書き方もまどろっこしくて自分の研究のおもしろさをわかりやすく伝えていない。次の本はサイエンスライターとくんで欲しい。

いい男だから結婚するのか、結婚するといい男になるのか。日本プロ野球はこの先生きのこるのか。大学の教員を全員任期制にするのはうまくいくのか。本書はこういった疑問を経済学的に(=インセンティブと因果関係から)考察する。この類の本は『ヤバい経済学』など最近たくさんある。しかしこの本は題材の選択など基本に忠実だが語り口がわかりやすく退屈させない。上のようないかにもミクロ経済学的な事柄だけでなく、格差や年金などの政治的に生臭い話題も扱っているが、大竹先生の視点はシャープでクールであくまで上品だ。この本を読んだあとニュースを見たときに「大竹先生ならどう言うかな」と考え始められるようになれば、経済学的思考のとば口をつかんだことになるだろう。

行動ゲーム理論入門

行動ゲーム理論入門

行動ゲーム理論とは、実験室やフィールドでわかってきた人間行動にかんする法則性に基づいて、伝統的なゲーム理論からの知見を検証・発展させる学問分野。この本では、限定合理性概念の導入の歴史的経緯からから慣習の形成といった最新のトピックまでを題材に、行動ゲーム理論の歴史と現在を簡潔に描き出す。本書の通奏低音になっているのは、実験経済学と行動経済学の対立だ。カーネマンらの心理学者はアレのパラドックスなどに見られる意志決定上のアノマリを多数発見してきたが、こうしたアノマリを被験者は適切な条件の下での学習によって乗り越えることができるのだろうか。こうしたアノマリは乗り越えられないとする行動経済学者に対して、著者のような実験経済学者は乗り越えられると考える。科学哲学を研究する人にはこの本は、『社会契約の進化』(Evolution of the Social Contract)をはじめとするスカームズの一連の著作のよい副読本になっている。

「考える」ための小論文 (ちくま新書)

「考える」ための小論文 (ちくま新書)

業務の関係で再読。大学受験のための小論文の参考書はいくつか読んだが、「小論文を書くときのアタマの使い方」を書いた本としてこれはかなりよくかけている。〈課題文・問題文をよく読み→課題文のテーマを自分に引きつけ例を考えて(よくある考え方に飲み込まれていないか気をつけて)→手元の例をよく観察しつつ→具体と抽象のレベルを行き来する〉というのが小論文を書くときの一つのやり方だが、それをいくつかの題材を元に説明している。添削例もあり、この答案のどこがまずいのか、採点者の目からわかるようになっている。ただし公式的なものはまったく提供していないので、即効性はないかもしれないが、小論文に悩む人は一度読んでみてよいだろう。