時事問題には反応しないことにしているが、誰も指摘する人がいないので。
be動詞など中学レベルの指導をしていた大学が文部科学省から注意を受けたという朝日新聞社のニュースサイトの記事が話題だ。これは文科省の「設置計画履行状況等調査の結果等について」を受けた記事だ。この記事は先日から話題になっている。
しかし結論から言うとこの記事は、文科省の発表のごく一部を針小棒大的に強調したきわめてミスリーディングな記事である。
これは上のリンクからたどれる実際の文書(pdf)を見るとわかる。この文書では最近学部等の設置を認可した大学について教育などの状況が適当かどうかがチェックした結果である。
記事の見出しや本文を見ると「講義は中学レベル、入試は同意で合格 “仰天”大学に文科省ダメ出し」「大学としての“適格性”が問われそうなものも少なくありませんでした」とあり、さも多くの大学が授業のレベルについて問題視されたようにみえる。
しかし実際の文書を見ると、英語の授業内容について文科省からの意見がついたのは、調査対象になった502校中千葉科学大学の一校のみである。また授業レベル全体についても、意見がついたのは他につくば国際大学、東京福祉大学、純真学園大学の計四校のみである。*1これを「少なくありません」とするのは、実態をかなり歪めている。
それどころか亀田医療大学についての意見では習熟度別授業を推奨している。一般に習熟度別授業をすると、成績下位者の授業では中学・高校レベルと大差なくなるので、「中学・高校レベルの授業だとダメ」と文科省が考えているとはいえない。
また文科省自身も上で述べたような授業レベルの件をそれほど重要視していないようにみえる。というのは上の文科省のページの後方には「平成26年度調査結果の概要」として改善を要する主な点について書いてあるが、授業のレベルについては言及がない。
むしろ文書に書かれたほとんどの意見は
- 定年規程に定める退職年齢を超える専任教員数の割合が比較的高い
- 定員充足率が70パーセントを切っている、あるいは定員超過する学生を入学させている
といった事柄である。このことは記事にも一応書いてあるが、見出しや記事の構成を考えると読者の頭にはほとんど残らないだろう。実際ツイッターの反応は上の英語などの授業レベルについての件が圧倒的に多い。
なおこの同じ文書についてNHKも報道しているが、記事のトーンは朝日新聞社のサイトのものに比べてずっと穏当になっており、わたしが報告書を読んだときの印象と大差ない。