まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

本が出ます

師走になりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

さてこのたび単著を出版することになりました。

この本のテーマは種問題です。分類の基本単位である「種」についてたくさんの定義が提起されて、そのうちでどの定義がよいか生物学者の間で普遍的な合意がないことはみなさんもご存じのことと思います。これをみると種問題は、生物学全体にかかる重しのように感じるかもしれません。しかし同時に生物学者は種や種分化について様々なことを明らかにしてきました。

本書はこの「種問題について悩むと同時に悩まない生物学者」を取り上げて、この対立がどのように生まれているのかを、歴史や哲学、また認知心理学の成果から検討したものです。

この本を読んでいただけると、種問題には今まで論じられてきたものとは違う側面があり、そこに着目すると「種」という概念に潜む対立をいわば「止揚」できることがわかります。

12月というとギフトのシーズンですが、みなさんの家族や友人にも種問題が気になっている人が一人はいると思います。そうした人にぴったりなギフトとしてこの本を送ってみてはいかがでしょうか。

拙著刊行記念オンラインイベントのお知らせ

拙著種を語ること、定義すること: 種問題の科学哲学
出版を記念してオンライントークイベントが行われます。わたしの他の出席者は岡西政典さん

三中信宏さんです。有料イベントですが、どうぞよろしくお願いいたします。(なお"book and beer"と書いてありますが、わたしがオフィスから配信する場合はしらふでの参加になります)。

本が出ます

師走になりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

さてこのたび単著を出版することになりました。

この本のテーマは種問題です。分類の基本単位である「種」についてたくさんの定義が提起されて、そのうちでどの定義がよいか生物学者の間で普遍的な合意がないことはみなさんもご存じのことと思います。これをみると種問題は、生物学全体にかかる重しのように感じるかもしれません。しかし同時に生物学者は種や種分化について様々なことを明らかにしてきました。

本書はこの「種問題について悩むと同時に悩まない生物学者」を取り上げて、この対立がどのように生まれているのかを、歴史や哲学、また認知心理学の成果から検討したものです。

この本を読んでいただけると、種問題には今まで論じられてきたものとは違う側面があり、そこに着目すると「種」という概念に潜む対立をいわば「止揚」できることがわかります。

12月というとギフトのシーズンですが、みなさんの家族や友人にも種問題が気になっている人が一人はいると思います。そうした人にぴったりなギフトとしてこの本を送ってみてはいかがでしょうか。

学術会議問題 世論調査まとめ

11月17日更新(14・15日にあった調査の数字および平均値を更新)

日本学術会議の問題だが、

といった意見を結構見かけたにもかかわらず、世論調査の結果を紹介する人があまり見なかったので、わたしが見た限りの世論調査の結果を表にまとめておく。

対象はわたしがインターネットで「学術会議 世論調査」などで検索して出てきた主な報道機関(NHK共同通信、読売新聞、朝日新聞JNN、ANN、日経新聞テレビ東京)による世論調査。以下の表では質問を三つのカテゴリに分けている。

  • 対応:政府が六人の候補者を任命しなかった対応の是非を聞くもの。例:「政府は、首相が所轄する日本学術会議が推薦した新しい会員候補105人のうち、6人の任命を拒否しました。政府の対応に、納得できますか、納得できませんか。」(読売新聞)
  • 説明:上の任命拒否に関する政府の説明が納得できるか・十分かを聞くもの。例:「「日本学術会議」が推薦した新しい会員の一部を任命しなかったことについて、菅総理大臣は「法に基づいて適切に対応した結果だ」などと説明していることに、どの程度納得できるか」(NHK)
  • 改革:学術会議を行政改革の対象として組織のあり方を見直すとする政府・自民党の方針に賛成かを聞くもの。例:「自民党は、政府からの独立性など、日本学術会議のあり方の見直しに向けた議論を始めました。あなたは、会議のあり方を、見直すべきだと思いますか、思いませんか?」(ANN)

注意

  • ご存じのように世論調査は質問の聞き方によって結果が変わりうるが、インターネット上ではすべての調査のナマの質問を見つけられなかったので、無理矢理まとめている。一部のリンク先にはナマの質問があるので参照して欲しい。
  • 各社の世論調査が方法論的に妥当であることを仮定している。
  • この問題はa developing storyなので、この問題がはじめて明るみに出た10月初旬と下旬では世論自体が変わっている可能性がある。
報道機関 調査期間 質問の種類 結果 URL
JNN 10月3日~4日 対応 妥当だ: 24、妥当ではない:51、答えない・わからない:25 *1
NHK 10月9日~11日 説明 大いに納得できる:10、ある程度納得できる:28、あまり納得できない:30、まったく納得できない:17 *2
読売新聞 10月16日~18日 対応 納得できる:32、納得できない:47、答えない:21 *3
読売新聞 10月16日~18日 改革 評価する:58、評価しない:26、答えない:17
テレビ朝日 10月17日~18日 対応 思う:28、思わない:42、わからない・答えない:30 *4
テレビ朝日 10月17日~18日 説明 納得する:23、納得しない:62、わからない・答えない:15
テレビ朝日 10月17日~18日 改革 思う:64、思わない:13、わからない・答えない:23
共同通信 10月17日~18日 説明 十分:16.1、不十分:72.7 *5
共同通信 10月17日~18日 対応 適切:35.5、不適切だ:45.9
朝日新聞 10月17日~18日 対応 妥当だ:31、妥当ではない:36、その他・答えない:33 *6
朝日新聞 10月17日~18日 説明 十分:15、不十分:57(内閣支持層でも「十分だ」は23)
日経・テレビ東京 10月23日~25日 説明 十分:17、不十分:70(「不十分だ」は自民党支持層でも67%、公明党支持層で9割弱) *7
日経・テレビ東京 10月23日~25日 改革 賛成:62、反対22
毎日新聞 11月7日~7日 対応 問題だ:37、問題だとは思わない:44、どちらとも言えない:18 *8
毎日新聞 11月7日~7日 改革 適切だ:58、適切ではない:24、わからない:18
JNN 11月7日~8日 説明 十分:21、不十分:56、答えない・わからない:23 *9
JNN 11月7日~8日 改革 賛成:66、反対14、答えない・わからない:20
NHK 11月6日~8日 説明 十分だ:17, 十分ではない:62、わからない、無回答:21 *10
NHK 11月6日~8日 改革 適切だ:45、適切ではない:28、わからない、無回答:27
読売新聞 11月6日~8日 説明 納得できる:33、納得できない:56、答えない:11 *11
読売新聞 11月6日~8日 改革 評価する:70、評価しない:19、答えない:11
テレビ朝日 11月14日~15日 説明 納得できる:23、納得できない:54、答えない:23 *12
朝日新聞 11月14日~15日 対応 妥当だ:34、妥当ではない:36、その他・答えない:30 *13
朝日新聞 11月14日~15日 説明 納得できる:22、納得できない:49、答えない:29
共同通信 11月14日~15日 説明 十分:21、不十分:69.6 *14

なお質問の三つの種類別に平均を出すと以下のようになる*15

質問の種類 政府に肯定的 否定的
対応 39 37
説明 22 60
改革 60 21

一週間前と比べて任命拒否の賛否が逆転したが、これは同じ報道機関が調査を二回行った場合一回目を除外していることによるartefactの面がある(最近は対応についての質問をすることが少なくなったので、毎日新聞の質問結果の重みが大きくなる)。とはいえ10月上旬と比べると政府に肯定的な人が増えている。説明や改革については対応は変わらない。政府の説明は1対3くらいで否定的な人が多く、対して学術会議の改革には3対1くらいで賛成の人が多いという感じだ。

AIについての三冊

「AI・ロボットの倫理」を扱う授業を行う関係でAI関係の本をいくつか読んだので紹介しよう。わたしが読んだのはAIを自分で作ったり活用する本(例えば機械学習のしくみを学ぶ本)ではなくて、テクニカルな詳細にはたち入らずにAIの歴史やAIの問題を紹介する「文系的な」本。

Artificial Intelligence: What Everyone Needs to Know

Artificial Intelligence: What Everyone Needs to Know

  • 作者:Kaplan, Jerry
  • 発売日: 2016/10/03
  • メディア: ペーパーバック

英語の本で恐縮だが、AI研究の歴史や現状、哲学や法、社会のインパクトについて信頼できまとまった知識を得る上ではこの本が一番よい。著者は経歴を見る限りはAIとその周辺について内側(AI側)と外側(HPS・科学論)から研究してきた人なので、一方に偏らないバランスの取れた見方が学べる。また著者自身の見方もバランスが取れており、「シンギュラリティ!」といってAIの発展を煽るのでもなく「ディストピア!」といって暗い未来を描くわけでもない(実際著者はシンギュラリティが到来するのは十分先で現時点で心配するには及ばないが、AIが社会に負の影響を与える可能性はあると考えている)。英語も読みやすいし、150頁程度なので、ゼミなどで読む時の候補になるだろう。

AI社会の歩き方―人工知能とどう付き合うか (DOJIN選書)

AI社会の歩き方―人工知能とどう付き合うか (DOJIN選書)

  • 作者:江間 有沙
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

この本も上の本と同じように、AI研究周りの話題をまんべんなくカバーしている。上の本にない特徴としては、著者がSTS科学技術社会論=科学・技術研究と社会の間に生じる問題について考察する)の研究者であり、上の事柄に加えて「AI研究者コミュニティ」「ユーザー」「政府関係者」などAIにまつわる人々がどう考えているのかにも焦点が当たっていることである。また最終章ではSTS研究者としての著者の役割(「地図作り」「橋渡し」)を説明しており、外野からはなかなかよくわからないSTSという分野の解説にもなっている。

AIの進歩を示す近年の典型例の一つは将棋ソフトの展開である。この本は数年前の最強将棋ソフト「ポナンザ」の制作者が、将棋ソフトの進展を例にしてAIの進歩を解説した本。上の二つの本に比べるとAIの技法にほんの少しだけ触れているが、記述はわかりやすい。またこの本の特筆すべきところは、将棋を題材にして現在のAIが不得意なところ(ある局面で方針を決めて、それに沿って最善手を探索したり読みを入れること)を述べている点である。ただ将棋や囲碁が題材になっているので、それらを全く知らない人は楽しめないかもしれないが、そうしたことに馴染みのある人は楽しんで読めるだろう。

読みやすい文章の書き方:期待をコントロールする

読みやすい文章を書くためのコツは色々とあるが、一つ重要なのは読者の期待(予測)をコントロールすることである。これはどういうことかというと、「これからわたしがどういうことを・どういうやり方で語るか」ということが読者にわかるように書いていくことである。

これを行う一つのやり方は、文章や段落を書く際に冒頭で文章全体・段落全体の構成を示して、その構成に沿って書くことである。こうすると読者は文章や段落の最初の部分を読んだだけで「この文章・段落は○○のトピックについて書いてあり、それについて△△のように進んでいくのだな」という期待を持つ。そしてその期待通りに文章が進んでいくとスムーズに理解が進む。

例えば次の段落のように「○○に反対する理由は三つある」と書いて、次の段落で「第一の理由は...」、その次の段落で「第二の理由は...」とやる場合がこれにあたる。

①わたしは恋愛や性交の対象となるような「性愛ロボット」の製品化には反対であり、その開発を規制すべきだと考える。②その理由は三つある。③一つは、こうしたロボットの製品化により、性愛ロボットへの依存症を発する人が増加する恐れが強いことである。④例えば...。


⑤二つ目の理由は、性愛ロボットの普及により歪んだ・暴力的な性行動を起こす傾向が強化されることである。

上の文章では①と②で、その後の段落や文章全体の骨格が暗示されている。これを読んだ読者は著者の立場および文章の構成を大体理解することになる。そしてその期待通りに次の文(③)や次の段落で文章が進んでいくことで、読者は「自分の予測が間違っていなかった」という満足感を得ることになる。

これに対してこのような構成の予告を伴わない文は読みにくい。

①しかし、これだけでは本章のプロジェクトが完了したとはいえない。②一つは、このような説明と二重過程説との関わりである。③本章前半では二重過程説の枠組みの導入して生物学者の「種」にかんする思考のあり方を説明すると述べた。④これについてはどうなるだろうか。⑤もう一つは、「種」についての定義を介した思考である。⑥これまでの議論では、「種」についての「定義を介さない」思考のあり方をさぐってきた。⑦しかし、生物学者が「種」について議論するとき、定義を介して思考している場合があることもまた無視できない。⑧そうした思考のあり方はどのように特徴付けられるだろうか。⑨そしてそれは二重過程説の枠組みのどこに位置するだろうか。⑩次の最終節では、こうしたことについて考える。

これはわたしが書いた草稿の一部だが、何となくいいたいことはわからなくもないけれども、今ひとつシャープさに欠ける。これは②や⑤が言及している「一つ」や「もうひとつ」がいったい何の「一つ」「もうひとつ」なのかがわからないためのである。これと以下の段落を比較してみよう。

①しかし、これだけでは本章のプロジェクトが完了したとはいえない。我々には残された課題が二つある。②一つは、このような説明と二重過程説との関わりである。③本章前半では二重過程説の枠組みの導入して生物学者の「種」にかんする思考のあり方を説明すると述べた。④これについてはどうなるだろうか。⑤もう一つは、「種」についての定義を介した思考である。⑥これまでの議論では、「種」についての「定義を介さない」思考のあり方をさぐってきた。⑦しかし、生物学者が「種」について議論するとき、定義を介して思考している場合があることもまた無視できない。⑧そうした思考のあり方はどのように特徴付けられるだろうか。⑨そしてそれは二重過程説の枠組みのどこに位置するだろうか。⑩次の最終節では、こうしたことについて考える。

この強調の部分でこの段落で何をやるか(残された課題を示す)が明示されている。これによって読者は「以下ではこれからの二つの課題について述べるのだな」ということが理解できて、しかも②⑤でその期待が満たされるので、気分よく文章を読んでいくことができる。

これに関連して注意すべき点は、暗示された段落の構成と実際の構成が食い違うことがないようにすることである。次の例を見てみよう。

①北海道と大阪には独特の食文化がある。②大阪ではお好み焼きは、炭水化物でできているにも関わらず「おかず」とみなされており、お好み焼き定食といったものが一般的に存在する。③またたこ焼きは神聖な食べ物と考えられている。④例えば大阪のすべての家庭にはたこ焼き器が備えられており、それぞれの家庭に代々伝えられたたこ焼きの作り方・焼き方が存在する。⑤これに対応するのが北海道のジンギスカンである。⑥スーパーマーケットにはジンギスカンソースにつかったラム肉のパックが売られているが、そうした商品を買うのはほぼ外地からの単身赴任者などに限られている。...*1

この段落では①と②の接続がスムーズではない。読者は①を読むと、「北海道と大阪の独特の食文化について、この順番で説明するのか」という期待をもつ。ところが②では大阪の(虚構の)食文化を説明している。こうすると読者の期待を裏切ることになり、読みにくくなる。

もちろんこのくらいの単純な文章ならこうした問題を見つけるのはたやすいが、論文のような込み入った文章を書くと、そして推敲を難解も重ねるうちにこうしたねじれた文章が時に入り込んで来ることがあるので、みなさんも(そしてわたしも)注意しなくてはならない。

*1:この段落の内容には虚構が含まれている。

陰謀論と政治

陰謀論を扱った二つのポッドキャストを聞いた。一つは陰謀論と政治に関わるFivethirtyeight(FTE)のポッドキャストで、もうひとつは地球平面説を扱ったScientific Americanのポッドキャスト。このうちだと前者の方が紹介する内容が多いので、以下ではFivethirtyeightのポッドキャストの内容を主に紹介して、関連する内容があるときのみScientific Americanのポッドキャストについて述べる。FTEポッドキャストのゲストはマギー・カート(FTEの科学担当)と政治学者で陰謀論を研究しているジョー・ジンスキー氏(マイアミ大学)。

陰謀論と政治

陰謀説信奉者と政治との関わりでは二つとても興味深いことがあった。一つは右(共和党支持者)と左(民主党支持者)では、陰謀説を信じる全体的な度合については変わらないことだ。確かにマスコミに出るのは共和党支持者の陰謀説が多いが(気候変動否定やQAnon*1、Birtherism*2)、「人口の1%がすべてを支配している」「トランプ氏はロシアのエージェントである」というような民主党支持者がもっぱら支持するような陰謀説もある。

ということで左右の別は陰謀説には関係ないのだが、しかし政治的スペクトラムの中で全くランダムに陰謀説が出てくるわけではない。というのは政治において陰謀説が出てくるのは、政治的アウトサイダー(時の野党など)からが多いからだ。例えば上のBirtherismが出てきたのはオバマ政権時だし、「同時多発テロブッシュ政権の内部犯行」というのはブッシュ政権時のことである。

蒙が啓かれた二番目の点は、陰謀説を支持する有権者は(2016年までは)政治への関わりが総じて薄かったという指摘だ。例えば投票率献金率(米国政治では普通の人でも支持する政治家に献金することは一般的)は、そうでない人に比べて低かった。また彼らは政党の本流をなす政治家よりも非主流派・アウトサイダーを支持する傾向がある。しかしこうしたことは説明を受けてみれば当たり前の話で、というのは陰謀説信奉者は「政府は○○(ユダヤ人、ロスチャイルド家、宇宙人など)に支配されている」と信じがちなわけであるから、通常の政治プロセスに係わらないのも当たり前ということになる。

これが変わったのは2016年で、この年の選挙では陰謀説論者がトランプ氏に動かされた。これはトランプ氏が陰謀説と親和性が高い(というか、積極的に陰謀説に荷担する)ためである。ただトランプ氏はもとは共和党アウトサイダーであったことを考えると「アウトサイダー陰謀論」という流れは今も断ち切られていないといえる。

科学に対する陰謀説が高まるのはなぜか

次の話題として、科学と陰謀論の関わりがある。COVID-19と5Gの関わりについての陰謀説や気候変動否定論に限らず、科学についての陰謀説には事欠かない。では科学に対する陰謀説が高まるのはなぜか。まず、これは(少なくとも米国の文脈では)科学者自身に対する信頼が失墜したからではない。世論調査によれば、アメリカ国民の科学者に対する信頼度は非常に高く、軍人に次ぐほどである。

では何が問題なのか。ジンスキー氏によれば、問題の一端は中高における科学の教え方にあるという。中高では科学を「絶対的な真理を細切れにして与える」という形で教える。これは生徒に対して「科学は絶対的に正しい」というイメージを植え付ける。そうすると、今回のような何事にも不確実性がつきまとうときには、科学からの託宣を信頼できなくなる。そこに「絶対的な真理」を与える陰謀説のつけいる隙が産まれるというのである。

どうしたら陰謀説を信じている人を説得できるか

ではどうしたら陰謀説を信じている人を説得できるだろうか。これは事柄の性質からして難しいとジンスキー氏は言う。なぜなら、こうしたことがいつもできるということは、人を自由自在に洗脳できるということになるが、もちろん我々はこうしたことはできないからだ。

しかし道はある。一つは陰謀説を完全に信じてこんでいる人よりも、そのとば口に立っている人の方が信念を変えやすい。もうひとつは、陰謀説信奉者が信頼するような人から証拠に基づいた意見を聞くと信念を変えやすくなる。例えばある実験によると、共和党支持の有権者共和党の下院議員が「デス・パネル*3は存在しない」と言っているのを聞くと、自分の考えを変えるという。

この点は地球平面説のポッドキャストの内容と呼応する。誰でも知っているように、地球平面説には地球の写真という「決定的な証拠」が存在する。もちろん地球平面説論者もそうした写真があることを知っている。では彼らはどのようにしてそうした写真の信憑性を否定するか。それは写真のソース(NASAなど)の疑わしさ(それがどんなに些細なものであっても)を指摘して、そこから出てきた写真を全否定するという論法をとる。そういう意味で、陰謀説信奉者でも信頼できるソースからの否定論を出してくると、彼らの信念を変える可能性が出てくるのである。

*1:ネットで読めるアメリカ政治解説は(報道機関からの論説であっても)妙なものが多いが、リンク先はそれほどヘンではないと思う。

*2:オバマ元大統領が米国籍をもっていないという説。トランプ氏が支持者だった。

*3:2008年の共和党副大統領候補サラ・ペイリンは、民主党国民健康保険制度改革案(オバマケア)が実施されると、専門家による「デス・パネル」が設置されて、重病患者の生死がそこで決められるようになると主張した。