まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

メモ

不満研究事件・「『わが闘争』論文」について

さて以前のエントリで述べた不満研究事件だが、このプロジェクトのメンバーのプラックローズとリンゼイが書いた本が翻訳されるという(原著についてもわたしは未読)。この本が話題になる理由の一つには彼らがこの事件を起こしたからだろう。しかしわたしは…

『現代思想』誌「進化論の現在」は看板倒れ

『現代思想』誌2021年10月号は「現代思想 2021年10月号 特集=進化論の現在 ―ポスト・ヒューマン時代の人類と地球の未来―」と題された特集だった。わたしはこの特集全体の企画意図に問題があると考えるので、手短に述べたい。わたしの不満は一言で言うと「こ…

大学は今もレジャーランドか

よく今の大学はかつてのようなレジャーランドではないといわれる*1。ツイッターでは大学教員から、現在の大学は学生に対して面倒見がよくなり、よく勉強させるといわれる(ソース)。これはわたしの体感にも合致しているが、しかしきちんとしたデータを引い…

「現代ビジネス」に寄稿

拙著プロモーションの一環で、哲学と科学の関係についての小文を「現代ビジネス」に書きました。 gendai.ismedia.jp

学術会議問題 世論調査まとめ

11月17日更新(14・15日にあった調査の数字および平均値を更新)日本学術会議の問題だが、この1週間ほど、学術会議問題で個人的に憂鬱が続いている。その理由は学問の自由が脅かされたからではない。大学人がいかに国民の支持を得ていないかがは可視化され、…

「パンデミック時のニュートン」からの教訓

新型コロナウイルスの流行で多くの学校が閉鎖されている。しかしそうしたことの予期せざるよい面を見ようとして、ニュートンのエピソードが話題になることがある。曰く ニュートンが微積分法、光と色の新しい理論、および万有引力の理論という大きな発見をし…

エルンスト・ヘッケルの研究不正

エルンスト・ヘッケル(1834-1919)の研究不正の事例について科学史の授業のためにいくつか論文を読んだが、授業ではほとんど使わなかった(二枚スライドを作っただけ)ので、またこの事例は日本語で検索してもあまり記述が出てこないので、ここでメモ。ヘッ…

道標が大切

最近は論文のドラフトなどを読む機会が多くなっているが、そこで気になることの一つは道標(サインポスト)がないために読みにくくなっている文章が多いことだ。サインポストというのは、これから書く文章についてのメタレベルからの説明である。例えば「こ…

瀧本哲史著『ミライの授業』のメンデルの記述は大幅に間違っている

高校生に出張授業をする準備のために『ミライの授業』[isbn:4062200171:detail]という本を読んだ。 しかしこの本のメンデルにかんする部分(204-210頁)は大幅に間違っている。著者はメンデルについて次の三つのことを述べている。

授業のためにどのくらい・どういう準備をしているか

以前「年収160万円」からの脱出、還暦を機に大学教授を目指してみたという記事が話題になった。これは色々突っ込みどころがある記事だが(その続編を見ると著者はたぶんわかってやっていると思う)、一つ気になったのはこういうところだ。 近々の世界の経済…

研究資金の減少は、税金の無駄使いを加速している

Scientific AmericanのポッドキャストでRichard Harrisのインタビューをしていた。彼はNPRの科学リポーター(science correspondent)で、Rigor MortisRigor Mortis: How Sloppy Science Creates Worthless Cures, Crushes Hope, and Wastes Billions作者: R…

アブストラクト・イントロダクションの書き方

最近アブストラクトやイントロダクション*1を書くときに使っている公式があるのでメモ。これはカナダや日本で学生のエッセイをいろいろ見た経験から抽出したものなのである程度汎用性があると思う。その公式とは、イントロは以下の(最高)五つの項目につい…

そもそも重大な問題とは書かれていない

時事問題には反応しないことにしているが、誰も指摘する人がいないので。be動詞など中学レベルの指導をしていた大学が文部科学省から注意を受けたという朝日新聞社のニュースサイトの記事が話題だ。これは文科省の「設置計画履行状況等調査の結果等について…

Krashenの議論

第二言語習得論の勉強を続けている関係で、Stephen Krashenの"Principles and Practice in Second Language Acquisition"(pdf)を読んでいるが、第二章で自分の仮説をサポートする仕方が雑すぎる。Krashenはこの章で第二言語学習に関するいくつかの有名な仮…

廉価版を買うかグレードアップ版を買うか

わたしが買い物をするときに頻繁に直面する意思決定問題の解決法を考えたので備忘のためにメモ。 問題の状況 ある種類のものを買いたいと思っている。それには廉価版とグレードアップ版があり、後者の方が品質・機能は勝っているが値段がそれに応じて高い。…

免許をとる時に役立ったものメモ

4月から北海道に住むようになっていきなり必要になったのがクルマの免許。わたしの住むところは都会に比べて公共交通機関が圧倒的に発達していないので、クルマがないと職場←→自宅の往復以外の人生を送ることができない。ということで4月から自動車学校に通…

論文は「古畑任三郎」のように書く

先日論文の書き方について浮かんだことがあるのでメモ。それは、論文は『古畑任三郎』のように書くべし、というものだ。古畑任三郎 3rd season 1 DVD出版社/メーカー: フジテレビジョン発売日: 2004/09/15メディア: DVD購入: 1人 クリック: 11回この商品を含…

アタマでごちゃごちゃ考えるよりも

IQ and Human Intelligence作者: N. J. MacKintosh出版社/メーカー: Oxford Univ Pr発売日: 2011/04/30メディア: ペーパーバック購入: 1人 クリック: 3回この商品を含むブログを見るを読んでいたところ、こういう実験にぶつかった。*1次の問に答えてみてほし…

一日のどこかで、プロジェクトのことを考える

博士論文を抱えている人に話したアドバイスの中で、ちょっと反応がよかったものがあるのでメモ。博士論文を書くのにはたいがい時間がかかる。一年から二年かかるというのはほとんど短い方の部類だ。そして博士論文を書くという段階に至った人は、「教える」…

科学哲学には何が期待されていて何ができていないのか

『ダーウィンと進化論の哲学 (科学哲学の展開)』について評論家の山形浩生さんから厳しい書評をいただいた(リンク)。すでに他の方が指摘されている通り、あの書評には個々の論文について指摘された「問題点」について事実誤認や的はずれのところがある。他…

別の手段をもってする科学の継続

UCLのHasok ChangがThe Philosophers' Magazineのインタビューで、科学哲学の意義について語っている。Inventing Temperature: Measurement and Scientific Progress (Oxford Studies in the Philosophy of Science)作者: Hasok Chang出版社/メーカー: Oxfor…

なぜ環境問題を考えても経済成長は望ましいのか

経済学という教養 (ちくま文庫)作者: 稲葉振一郎出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2008/07/09メディア: 文庫購入: 14人 クリック: 256回この商品を含むブログ (73件) を見るを読んでいて表題について書いてあったのでメモ。著者は環境問題を考慮したときの…

棄権しても世の中は変えられる

選挙がちかくなると、「棄権していては、世の中は変わらない」とか「棄権は現状肯定にすぎない」という意見がよく聞かれる。これは間違っていると思う。というのは投票率(棄権率)はマスコミの関心事であり、政府も投票率を向上させようとするインセンティ…

給付つき税額控除の実際

最近話題の給付つき税額控除について、この制度を導入しているカナダで実際に還付をうけた側からの体験談。カナダの消費税は、連邦政府の消費税と州ごとの消費税に分かれている。連邦政府の消費税はGST(Goods and service tax)と呼ばれ、税率は現在5%(元…

この現象

掲示板などでときどき見る光景。 A氏「なんとかかんとか」 B氏「それはかんとかなんとか」→日本語で議論している C氏「I think blah blah blah」→英語でコメント A氏「But blah blah blah blah blah」→英語で返答。でもC氏は日本語読めるはずなので英語で返…

分析哲学を理解するには意外と訓練がいる

科学や不平等について書かれた某本の訳文についての議論を見た(訳本を批判するのが主題ではないので、訳書にはリンクしません)。そこでの指摘を見る限り、訳の問題には、予備校でやるような英文読解の問題もあったが、哲学のカルチャーや術語の重みがうま…

薬指>小指=人差し指

先日囲碁の藤沢秀行名誉棋聖が亡くなったが、高尾紳路九段のブログに興味深いことが書いてあった: [藤沢]先生の手が、人差し指と 小指の長さが一緒な事に 初めて気がつきました。 (人差し指がかなり短かった) 告別式 - たかお日記 もしこれが正しいとする…

ID論者と議論すべきかそれともあざわらうべきか

ドーキンスのID論に関する以下のコメントがちょっとした話題になっている。抜粋すると I suspect that most of our regular readers here would agree that ridicule, of a humorous nature, is likely to be more effective than the sort of snuggling-up …

ブラーの反進化心理学

※名前の読み方をなおしました。[Apr. 17]YOSOプロジェクト(よく知らないままに思いつきを書くプロジェクト)第二弾(第一弾はこちら)。1月号のScientific Americanはダーウィン特集だが、そのなかでデイヴィッド・ブラーが反進化心理学のエッセイを書いて…

Evo-DevoとDST

最近何回かEvo-DevoとDSTの関係について日本語で書いてあるものを読んだので、今のところの考えをメモ。ただしこのトピックについては今のところリサーチが決定的に足らないので間違いやoversimplificationが入っている可能性が多分にあるので、その点はご注…