まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

日本語ってむつかしすぎワロタ\(^o^)/

ある教授に、自分の本の書評が日本語ででたのでそれを英語に訳してくれと頼まれた。やってみると結構むつかしい。*1

「逆に」

たとえば、ここの「逆に」というのがわからない(以下日本語の引用は書評から)。

たとえば、18世紀には経済秩序の基礎が物理的自然に求められたという主張に対して、精神的なものの役割を強調する言説を拾い集めることは、きわめて容易である。逆に、19世紀中頃から経済秩序の脱自然化が進行したという主張に対しても、...[この]図式に収まらない論点は少なくない。

「逆に」というのは、〈18世紀:経済秩序の自然化 vs. 19世紀:経済秩序の脱自然化〉という対立のことだと思う。「逆に」というのを"on the one hand" "on the other hand"で処理していいものか。

    • >ここをみると、ここで"on the other hand"を使うのは間違いのように思えてきた。というのは上の対立は「ひとつのものについての二つの見方の対立」というほど先鋭なものではないからだ。ということで、ここの「逆に」は結局訳さないことにした。たとえばこんな感じか。

Take the following claim: the basis of the economic order was sought in physical nature in the 18th century. But one would very easily find many instances where a thinker emphasizes the importance of the psychological. To another claim ------ denaturalization of the economic order developed in the mid-19th century ------, one would also find many cases not in harmony with it: [...]

流れを引きつぐ

この文もむつかしい。

...キリスト教経済学の伝統にはなお強力なものがあったが、経済学の脱宗教化の流れは、リカードウからミルへと引き継がれていく。

前半部は"Although the tradition of Christian economics [...] was still influential, ..."でいいと思う。問題は後半。「引き継ぐ」とはどういうことだろうか。リカードウとミルが経済学の脱宗教化に貢献したことはこの文からわかる。しかしそこからがわからない。キリスト教経済学の伝統が影響力を持っていたような環境のもとでも、脱宗教化の流れがこの二人などによって維持されていたということだろうか。しかしこれを"inherit"を使って表せるのだろうか。また、経済学の脱宗教化をリカードウがはじめたことをこの文は含意しているのだろうか。つまり"inherit"というのは、何となく「すでにあるもの(遺産とか)を経年的に維持していく」感じ(辞書にも"to receive or take over from a predecessor"とある)なのだが、この文は経済学の脱宗教化の歴史的誕生からの歩みをも示唆しているように思えるのだ。で、一応"the trend of secularizing economics developed from Ricardo to Mill"としたが、自信はない。

進行した

19世紀中頃から経済秩序の脱自然化が進行した

この「進行した」もむつかしい。一番はじめに思いついた"proceed"だと、19世紀中頃以前からもあった脱自然化がこの時期に進んでいったという感じだが、上で書いたように他の点から見ると、脱自然化はそれ以前には(ほとんど)なかったらしい。たぶん"Denaturalization of the economic order developed itself ..."あたりだろうか。しかしそれだと上と同じになってしまうが、それでいいのか。

詰めの作業

本書で指摘される多数のアナロジーには、興味深いものがあるのも確かである。ただ、詰めの作業はこれからであるように思う。

これは最後の文。「詰めの作業」というのは、ここではなにも書かれていないが、アナロジーをconfirmすることだと思う。ということでこう訳した。

This book finds many analogies in the history of economic thoughts, and some of them are certainly interesting; however, further study is required to confirm them.

もちろん、間違い指摘歓迎いたします。

[Nov 25. 少し直しました。]

*1:べつにこのエントリはこの書評を批判するためではなく、英訳はむつかしい(そしてわたしは下手)ということをいいたいだけです。為念。