まとまり日記

業績をあげるために研究成果を発表する哲学者や歴史学者は、紙を無駄づかいしたり同僚をうんざりさせたりすること以外にはほとんど害をなさない(『動物の解放』人文書院、101頁)

"I insist that ..."は「わたしは・・・と主張する」ではない

日本語の哲学の論文を読むと、英語の要約部分で結構な確率で「I insist that p」が使われているのを目にする。例えばciniiで"I insist that"で検索すると、500件ぐらいヒットする。

英和辞書を読むとinsist that pは「~と主張する」と書いてあるので、著者の方はたぶん「わたしは~と主張する」という意味でこれを使っているのだと思う。

しかし"insist"はそういうニュートラルな意味での「主張する」ではない。わたしの語感ではinsistは、自分の立場に対する反対意見を聞いてもなおも(もしかしたら無理気味にでも)自説に固執する時に使う単語である。

これは英英辞書を見るとはっきりする。例えば

Longman Dictionary of Contemporary English (6E) Paperback & Online (LDOCE)

Longman Dictionary of Contemporary English (6E) Paperback & Online (LDOCE)

という学習者向けの辞書を見ると"to say firmly and often that something is true, especially when other people think it may not be true"と書いてあり、特に他人が自説が正しくないと考えている時に使うと書いてある。

この点はまたシソーラスを見るとさらにサポートされる。この辞書の類義語欄に挙げられているのはargueとかmaintainといった「論じる」に対応する定番の動詞ではなくて、demand, require, be adamantといった単語・フレーズである。

また"I insist that"は英語論文では他の類似のフレーズに比べてほとんど使われない。例えばgoogle scholarでこのフレーズを検索すると1万5千件あまりしかヒットしない。これに対して"I argue that"だと約54万5千件になる。出典欄にphilosophyを入れると差はさらに広がり"I insist that"は370件あまりに対して"I argue that"は2万600件とその差は55倍以上になる。

英作文上のこういう問題を避ける方法のひとつは、(月並みなアドバイスではあるが)疑問に思ったら英英辞書を引いてみることだ。英和辞書だと英単語の理解がどうしても日本語訳語のニュアンスに引きずられてしまうが、英英辞書だと単語の意味をほぼ正確に説明してあるので、こうした誤解をすることは少なくなる。もちろん英語のインプットをたくさんすることも重要で、「こういう局面ではこの単語を使う」という暗黙的理解が形成されると、場にそぐわない単語をみると「おかしいな」と感じることになる。