まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

研究費の配分をクジで決める

研究費の配分を(一部)くじで決めているという『ネイチャー』誌の記事を読んだ。これを行っているのはニュージーランドの健康科学評議会(Health Research Council of New Zealand)という政府の組織で、2015年にくじを導入した。

くじで研究費の配分を決めると言っても、すべての申請を一律に箱に入れてくじを引くわけではない。第一段階では申請書をスクリーニングして一定のクオリティに達しているものだけを残す。そして一次審査を通過したものから研究助成金の配分先をくじで選ぶ。

この方式をとる一つの理由は、非常に優れた研究計画と非常に劣った研究計画を見分けるのは審査委員にとって容易だが、多数ある中くらいのクオリティの研究計画に逐一順位をつけるのは難しいことがある。しかし配分先をすべて人為的に決める場合はそうした申請の間に差異を見いだして無理矢理にでも順位を決めなくてはいけず、それには多大な労力が審査員にかかる。またそうした審査の末落とされた申請者にも(実際のところたいした違いがないところで無理矢理違いを指摘されて落とされたものだから)不満が残る。

これに対してくじに委ねるやり方ではそうしたhair-splittingな(些細な)違いを見分ける必要は審査員に生じないので、彼らの労力を節約することができる。また「落とされた」申請者のほうも、自分の計画がある程度の水準に達していたことがわかり不満は出ていないという。

またくじを導入するもう一つのメリットは助成金配分におけるバイアスが軽減されることだ。いろいろな研究で明らかになっているとおり、科学者の人生の様々な局面でマイノリティに属する人たちは不利を強いられる。助成金の審査も例外ではない。しかしくじの導入で、少なくとも第一次選考を突破すれば採択されるかどうかは平等になる。

また審査員による選考ではどうしても着実で「堅い」研究計画に評価が偏りがちで、ハイリスク・ハイリターンな研究には不利になる。これもランダム性を導入することで、そうした研究が採択される可能性は高くなる。

記事によるとくじによる選考はニュージーランドだけでなくスイスや独の公的・私的助成金でも用いられているという。

記事の最後にはくじを導入するメリットとして採択された研究者にhumility(謙虚さ)をもたらすことが挙げられている。誰しも経験があることだが、自分の研究計画が採択されると研究者は「我は世界の王なり」といった気分になる。しかし採択にあからさまに偶然がかかわっていることがわかるとそうした傲慢さを持つことは少なくなる。「それがまさに科学に必要なものなのです」とこのアイデアの支持者である経済学者のMargit Osterloh氏は述べている。