- 作者: 安西徹雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1995/05/01
- メディア: 文庫
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を読んだ。これは翻訳をしたい人にはとても役立つ、すばらしい本。まず背表紙の英文
Mishima Yukio used to be fond of saying that Japan and the United States should have another war.
を読んで自分ならどう訳すか考えてみるとよい。
(考える時間です)
たとえば直訳調の文ならこんな感じになるだろう。
しかし著者の訳文はこれ。
負けました。ずっとわかりやすく、ずっと生き生きしている。
この本で著者がまず強調するのは、原文の思考の流れを大切に、ということ。自分なりにこれをパラフレーズすると、
- (原文の)一文においては、文の部分部分で何がトピックになっているかを見逃さずに、原文における意味上のかたまりをかたまりとして訳す。
- (原文上)次の文に翻訳が移るときには、文の間のトピックにおけるつながりを、訳文においてできるだけ再現する
ということだ。第一の点について例を挙げると、上の文では、"Mishima Yukio used to be fond of saying that..."がひとかたまりだから、まずそれを「三島由紀夫が、生前、好んで語っていたことがある」と訳すわけである。第二の点については、次の文を考えてみるとよい。
It took a war to make Americans interested in Japan [...].
これは上の文に続く文だが、原文だと"Japan and the United States should have another war"(第一文)と"It took a war to make Americans..."(第二文)が"war"という語によってトピックの点から連結されている。この連結を生かすために
戦争があって、はじめてアメリカ人は日本に興味を持ち始めた。
のように、「戦争」という語を訳文の中で前に出すことが大切なのである。
その意味で、ひとつの文の中に隠れている「核文」(極めておおざっぱにいうと(Don't cite me)、その文が含意する、単純な構造をもつ文)をとりだし、それを翻訳相手の言語の話者が理解しやすいように組み立てていくことで訳文をつくっていくことを主張する、ナイダの本『翻訳---理論と実際』を紹介している第II章がわたしには役だった。トピックにおけるつながりを生かすためには、直訳的な語順(たとえば、it is x that does yをつねに「yするのはxである」と訳す)で訳すことはむつかしいからである。
(追記 [June 2, 2008])
著者の安西徹雄さんが亡くなったとの知らせを受けた(朝日新聞)。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。