まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

免許をとる時に役立ったものメモ

4月から北海道に住むようになっていきなり必要になったのがクルマの免許。わたしの住むところは都会に比べて公共交通機関が圧倒的に発達していないので、クルマがないと職場←→自宅の往復以外の人生を送ることができない。ということで4月から自動車学校に通い始めて、このたび無事免許を取ることができたので、そのときに役に立ったものを紹介。

ビデオ

まず役に立ったのがYouTubeに上がっている自動車教習所のビデオ。たとえばこの動画のシリーズは埼玉県の教習所で使っていると思われるが、よくまとまっていて助かる。

こういうのを実技教習の前後に見るとよい予習・復習になる。

以下のものは兵庫県の教習所の元指導員の方がアップロードされているビデオ。これはペーパードライバー向けの講習であり、教習所で教えられていることと違うことを言っている箇所もあるが、かえっていろいろな見方を知ることができて勉強になる。

またハンドルの回し方についてはこの動画が非常に参考になった。

あとわたしの場合は時速60キロで走ることに最初のうちはだいぶ恐怖を感じていたので、高速道路の走行をドライブレコーダーで撮影した動画をたくさん見てスピードに慣れるようにした。

本も少し買って勉強した。

わかる!解ける!普通免許一発合格問題集

わかる!解ける!普通免許一発合格問題集

これは学科試験のための勉強本で、教習所が学科試験のための問題集をくれるだろうから、人によっては必要ないかもしれない。ただ、教習所に入る前から買って眺めておくと長い時間をかけて憶えるので忘れにくい感じがするし、また複数の参考書を使うと異なった文脈で勉強できるので憶えやすくなる(ただし別にこの本である必要はない)。

決定版 女性のための運転術

決定版 女性のための運転術

プロのレーシングドライバーが特に運転が下手だとされる女性にクルマや運転の基本について解説した書。とはいえ女性だけでなく運転初心者の男性にも役に立つないようになっている。女性の初心運転者五人とドライブして彼女たちの運転の問題点を解説した箇所は、初心者が陥りやすい陥穽を説明していて役に立つ。また「雨の高速道路はできるだけ運転しない」「見るものしか信じない」など、元レースドライバーにしてこれだけ安全運転に気を遣っているのかのがわかり、これは新鮮な驚きでもある。著者は外見から想像されるようにマッチョな人であり、また「クルマ愛」が筆致から隠しきれないところもあるので、そういうのが虫酸が走るほど嫌いな人には勧められない。ただ著者と愛情を共有できなくても有益な情報はとれるように、クルマや運転に関してはバランスのとれた書き方をしている。

新米英語教師が見た本

四月から勤務先の大学で英語の授業を始めるに当たって参考にした本の紹介。

まず手っ取り早く役に立ったのが次の本だ。

高校英語授業を変える!  訳読オンリーから抜け出す3つの授業モデル (アルク選書シリーズ)

高校英語授業を変える! 訳読オンリーから抜け出す3つの授業モデル (アルク選書シリーズ)

典型的ないままでの高校の英語授業を「英語のテキストを訳読するだけの授業」と捉え、三人の著者がそれから脱出するための三つのモデル――パラグラフチャート、英語縮約版を利用した「二度読み」モデル、Two way translation活動モデル――を提案する。この本の目的は、文法訳読式の授業が与える英文への「理解」だけでなく、音読などを通じてそうした文の「定着」へ向けた活動を取り込むための新たな授業のモデルを提起することだ。そのため各モデルはその実行可能性について討論や実践によるテストを経てきている。わたしもリーディング中心の二年生向けの必修クラスではここで紹介されている「パラグラフチャート」のモデルを使っていて、それなりに好評だ。実際のところ授業をやる際にはどのように授業をデザインするかがもっとも神経を使うところのひとつなので、こうした試みは教師の負担を大きく減らすものとして歓迎できる。

ただし、この本は「どうやって定着活動を授業に取り入れるか」については書いてあるが、「なぜ定着活動を取り入れた方がよいのか」「定着活動をして本当に効果があるのか」についてはほとんど書いていないので、その点に納得できない人は他の本に当たる必要がある。そうした定着活動の重要性を示しているのが、第二言語習得論を専門とする白井の一連の著作だ。

英語教師のための第二言語習得論入門

英語教師のための第二言語習得論入門

第二言語習得論を専門とする著者がその成果を一般向けに記した本。第二言語習得論(Second Language Acquisition, SLA)とは母国語以外の言語をどのように習得するかを研究する学問である。SLAの長所はなんと言っても様々な外国語学習法にたいして証拠に基づく評価をある程度与えられるところだ。著者は他にも色々同様の本を出しているが、これは「英語教師のための」と題にあるだけに、教師にとってはもっとも取っつきやすい。

この本の一番のポイントは、「理解可能なインプット」の量を現在よりも飛躍的に増やすことが学生・生徒の英語能力を向上させるのに不可欠だという点だ。つまり「だいたいわかるようなマテリアルを大量に聞かせる・読ませる」ことが大事であり、それに対して昔ながらの文法訳読形式では、与えられた英文を「正確に」「理解」することだけに時間が費やされてしまうためにインプットの量が少なくなってしまうというのである。ほかにも教師の「日本語式発音」はそれほど問題ではないとか、小学生レベルでの週一時間程度の外国語学習では母国語の能力には影響がないといった点も示唆に富む。小学生から社会人まで、およそ英語を教えることを生業にしている人なら一度は読んで損のない本だ。

また、次の本もよい。

英語授業の大技・小技

英語授業の大技・小技

これは中高・高専で教えてきた英語教師のティップス集で、授業をスムースに動かし生徒にモチベーションを与えるような授業デザイン・進行のヒントが書かれている。授業に慣れてきて学生からの反応もそれなりに良くなって「自分の授業もなかなかのものだな」とうぬぼれたときときにこの本を読むと、著者の教師としての腕のさえに自分の未熟さを思い知らされることになる。

同じ著者の次の本はもっと著者の理想とする英語授業のあり方が前面に出ている。

英語授業の心・技・体

英語授業の心・技・体

また、次の本はテストをどう作るかについて書かれている。

英語テスト作成の達人マニュアル (英語教育21世紀叢書)

英語テスト作成の達人マニュアル (英語教育21世紀叢書)

中学から大学まで英語教師としてデザインする英語テストのあり方について考えたもの。わたしにとって役だったのは、中間試験や期末試験のような授業に関係するテストのデザインだ。著者は、大学入試などの「選抜」のためのテストと異なり、授業の中のテストは生徒学生に勉強のための能力やモチベーションを高めるものだとし、「どういう形式のテストなら英語運用に関するどういう能力を高めることができるか」を詳細に記述していく。たとえば英文の和訳テストは「英語の勉強は英語を日本語の文章に直すことである」という考えを植え付けるのでダメ、それよりも英文要約や英文選択肢の選択の方がよい,といった感じだ。また小テストの形式をこれでもかとばかりに分類してそれが養う能力を分析した部分は圧巻だ。個人的にはテストをモチベータにしてコースをデザインしていくほうがやりやすいので、この本は大変参考になる。

『進化論の射程』第二刷出来

皆様にご愛顧いただいていおりますソーバー先生の

進化論の射程―生物学の哲学入門 (現代哲学への招待Great Works)

進化論の射程―生物学の哲学入門 (現代哲学への招待Great Works)

  • 作者: エリオットソーバー,Elliott Sober,松本俊吉,網谷祐一,森元良太
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2009/04/01
  • メディア: 単行本
  • 購入: 9人 クリック: 135回
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ですが、おかげさまでこのたび第二刷になりました。第一刷の誤植や誤りも修正されている(はず)ですので、生物学の哲学に関心のある方の常備薬として、印刷所のインクが切れる的勢いでお買い上げいただけますよう、よろしくお願いします。

四月より(2)

科学研究費補助金(基盤C)にわたしの研究課題「人間理性の進化的起源についての『社会的転回』の哲学的検討」が採択されることになりました。ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願い申し上げます。

一年生ゼミ用図書(予定)

春から一年生のためのゼミを担当することになり、そこで使えそうな本をいくつか読んでみたので、簡単にレビュー(ただしわたしの所属学科は経済・経営系なので、それを前提として読んで下さい)。


新版 論文の教室 レポートから卒論まで (NHKブックス)

新版 論文の教室 レポートから卒論まで (NHKブックス)

拙いレポートしか書けなかった大学生のヘタ夫が哲学者の「先生」と出会い、論文やレポートの書き方を学んでいくなかで、「レポートを書くとはどういうことか」を何も知らなかった読者に教えていく本。ストーリーテラーとしての著者の才が発揮されて、全編二人の対話で進んでいくので取っつきやすい。この本の出色なところは、先生とヘタ夫の見事な掛け合い...ではなく、「トピックについてどういう種類の本を選んだらよいか」という論文を書く準備をする第一歩のところからすすめているところだ。電子辞書より紙の辞書を薦めているなど、やや賛同できないところもあるし、またそもそもヘタ夫の最初のレポートがわたしのところの学生にとっては結構レベルが高いのでは(応用倫理の授業をとるなんて結構ガッツがあると思う)という疑惑もあるが、基本的に自分で読んで・学生に勧めて損はない。


レポート・論文の書き方入門

レポート・論文の書き方入門

哲学者の著者によるレポートの書き方の入門書。本書の特色は「テキスト批評」と題して、人文社会系の研究ではほぼ必須の「ある本の内容をまとめてそれについて有意義な何事かを語る」ための技法を解説している点だ。本文は100頁強で短いのに、後半は引用のやり方などやや形式的な点にスペースを割いていて、運転免許講習でいう「第一段階」にある一年生にとってはあまり有用ではないかもしれないと感じた。


武器としての決断思考 (星海社新書)

武器としての決断思考 (星海社新書)

著者の競技ディベートでの経験を生かし、ディベートでどのように自説を擁護し相手に反論していくかを説明することを通して、よりよい意思決定の方法を伝えようとする本。「いまは時代が劇的に変わったので大学生のキミたちは〈自分の頭で考える〉ことが生き残るために必要なのだ」という冒頭のアジテーションは陳腐すぎて鼻白むが(それは著者もわかっていると思う)、紹介された考え方の方法自体は定石にかなったものでオーソドックス。ただ競技ディベートの方法がベースになっている以上、読者がなにがしかの(社会)問題に興味を持っていてそれを解こうという意欲を持っていることが前提となっているので、そうした意欲の醸成から始めなくてはいけない場合にはちょっとハードルが高いかも。


こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書)

こんなに使える経済学―肥満から出世まで (ちくま新書)

前に紹介した大竹先生の本と同じく、身近な現象を因果とインセンティブの点から分析することによって経済学の広がり・考え方を読者に感じてもらうための本。大阪大学につながりのある著者たちが様々な社会現象について論じることで、経済学の懐の広さを示している。解雇規制の逆説や耐震偽装が生じるメカニズムの解明など、インセンティブを無視して「道徳」から社会を評論し設計することがいかに一面的であるかを説得的に論じる。またこの本の優れたところは、個人の美貌と賃金の関係や東大卒業の出世への影響を論じた章に典型的に見られるように、経済学の研究対象の広さだけでなく、経済学の方法についても示唆されている点である。週刊経済誌の連載を元にしたもので全体的にわかりやすいので、上の大竹先生の本と共にゼミでの輪読に使ってみてもよいかもしれない。


思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)

思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント (朝日新書)

〈いかにも社会で役立つような講義よりも、浮き世離れした学問の方が、応用の利く思考の「型」を与えるという意味で幅広く役に立ち大学で教えるにふさわしい〉という信念を背景に、経済学の基本的な概念を日常生活の文脈でどう応用するかを解説した本。経済学の入門書を読んだ人にはおなじみの話題が並ぶところもあるが、「好み(選好)の異なる人を見つけたときがビジネスのチャンス」など、新しいアイデアのヒントになるところもある。ただ各概念の解説も駆け足気味かつやや天下り感ありで、類書の『経済学的思考のセンス』の方が取っつきやすい。

また双曲割引の解説(158ff.)は部分的にわかりにくい。著者は159ページでは「『今日・明日』というごく近い感覚の比較では将来を大きく割り引き、『年』といったそれなりに先の、ある程度長い期間の比較では辛抱強く、計画的になる傾向がある」と述べている。これは実現が迫った事柄(例:今ケーキをたべる)と実現が遠い将来の事柄(例:2年後に実現するダイエットの成就)を比較するときは後者の効用の大きさを大きく割り引くが、1年後に実現する事柄(例:一年後の今日ケーキを食べる)の比較では、2年後に実現する事柄の効用をそれほど割り引かないということだ。

ところが著者はこの後で「期日が近いほど割引率が大きくなるという現象は双曲割引といわれます」(160)と説明している。これは「期日が近い事柄」(今ケーキを食べる)の割引率が大きくなるように聞こえ、ミスリーディングである。さらに同じ頁にあるグラフでは、X軸に「期日への遠さ」(遠いほど原点から離れる)、Y軸に「割引率の大きさ」がとられているので、上の誤解を増幅させるような書き方になってしまっている(右図)。正しくはwikipediaのように、享受する瞬間の効用を1としたときのある時点での効用の大きさをY軸にとるととよいのだと思う。

四月より

私事ですが、四月より、東京農業大学・生物産業学部に常勤教員として赴任いたしました(ただしキャンパスは東京ではなくて北海道・オホーツクになります)。

ブログ読者のみなさんは、わたしとは個人的な接点のない方が大半だと思います。それでも――就職活動中の一筋縄ではいかない日々の中で――エントリに対する反応などで、色々教えられることがありました。また、学会などでブログを読んでもらっていることを教えてもらい、励ましになることもありました。本当にありがとうございました。

北海道は京都と比べてだいぶ寒いですが、風がないのでいまのところは北米の気候と似たところがある印象です。

最近は更新をサボっておりますが、時間を見つけて更新をしていきたいと思います。教員としては英語の先生として採用されたので、哲学だけでなくそれについてのエントリも書いていくことになる予定です。

ロブ・ルイス先生のインタビュー@SPring-8

前にSPring-8でモナシュ大学・サスカチュアン大学のロブ・ルイス教授のインタビューの通訳の仕事をしたのですが、それがアップロードされているのに今日気づきました。SPring-8が医学分野でどのように役立っているかおもしろいお話でした。あとインタビューをじーっと聞くとわたしの声が聞こえます。