新米英語教師が見た本
四月から勤務先の大学で英語の授業を始めるに当たって参考にした本の紹介。
まず手っ取り早く役に立ったのが次の本だ。
高校英語授業を変える! 訳読オンリーから抜け出す3つの授業モデル (アルク選書シリーズ)
- 作者: 金谷憲,高山芳樹,臼倉美里,大田悦子
- 出版社/メーカー: アルク
- 発売日: 2011/11/18
- メディア: 単行本
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典型的ないままでの高校の英語授業を「英語のテキストを訳読するだけの授業」と捉え、三人の著者がそれから脱出するための三つのモデル――パラグラフチャート、英語縮約版を利用した「二度読み」モデル、Two way translation活動モデル――を提案する。この本の目的は、文法訳読式の授業が与える英文への「理解」だけでなく、音読などを通じてそうした文の「定着」へ向けた活動を取り込むための新たな授業のモデルを提起することだ。そのため各モデルはその実行可能性について討論や実践によるテストを経てきている。わたしもリーディング中心の二年生向けの必修クラスではここで紹介されている「パラグラフチャート」のモデルを使っていて、それなりに好評だ。実際のところ授業をやる際にはどのように授業をデザインするかがもっとも神経を使うところのひとつなので、こうした試みは教師の負担を大きく減らすものとして歓迎できる。
ただし、この本は「どうやって定着活動を授業に取り入れるか」については書いてあるが、「なぜ定着活動を取り入れた方がよいのか」「定着活動をして本当に効果があるのか」についてはほとんど書いていないので、その点に納得できない人は他の本に当たる必要がある。そうした定着活動の重要性を示しているのが、第二言語習得論を専門とする白井の一連の著作だ。
- 作者: 白井恭弘
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2012/01/15
- メディア: 単行本
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第二言語習得論を専門とする著者がその成果を一般向けに記した本。第二言語習得論(Second Language Acquisition, SLA)とは母国語以外の言語をどのように習得するかを研究する学問である。SLAの長所はなんと言っても様々な外国語学習法にたいして証拠に基づく評価をある程度与えられるところだ。著者は他にも色々同様の本を出しているが、これは「英語教師のための」と題にあるだけに、教師にとってはもっとも取っつきやすい。
この本の一番のポイントは、「理解可能なインプット」の量を現在よりも飛躍的に増やすことが学生・生徒の英語能力を向上させるのに不可欠だという点だ。つまり「だいたいわかるようなマテリアルを大量に聞かせる・読ませる」ことが大事であり、それに対して昔ながらの文法訳読形式では、与えられた英文を「正確に」「理解」することだけに時間が費やされてしまうためにインプットの量が少なくなってしまうというのである。ほかにも教師の「日本語式発音」はそれほど問題ではないとか、小学生レベルでの週一時間程度の外国語学習では母国語の能力には影響がないといった点も示唆に富む。小学生から社会人まで、およそ英語を教えることを生業にしている人なら一度は読んで損のない本だ。
また、次の本もよい。
- 作者: 静哲人
- 出版社/メーカー: 研究社出版
- 発売日: 1999/02/01
- メディア: 単行本
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これは中高・高専で教えてきた英語教師のティップス集で、授業をスムースに動かし生徒にモチベーションを与えるような授業デザイン・進行のヒントが書かれている。授業に慣れてきて学生からの反応もそれなりに良くなって「自分の授業もなかなかのものだな」とうぬぼれたときときにこの本を読むと、著者の教師としての腕のさえに自分の未熟さを思い知らされることになる。
同じ著者の次の本はもっと著者の理想とする英語授業のあり方が前面に出ている。
- 作者: 靜哲人
- 出版社/メーカー: 研究社
- 発売日: 2009/06/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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また、次の本はテストをどう作るかについて書かれている。
- 作者: 静哲人
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 2002/04/01
- メディア: 単行本
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中学から大学まで英語教師としてデザインする英語テストのあり方について考えたもの。わたしにとって役だったのは、中間試験や期末試験のような授業に関係するテストのデザインだ。著者は、大学入試などの「選抜」のためのテストと異なり、授業の中のテストは生徒学生に勉強のための能力やモチベーションを高めるものだとし、「どういう形式のテストなら英語運用に関するどういう能力を高めることができるか」を詳細に記述していく。たとえば英文の和訳テストは「英語の勉強は英語を日本語の文章に直すことである」という考えを植え付けるのでダメ、それよりも英文要約や英文選択肢の選択の方がよい,といった感じだ。また小テストの形式をこれでもかとばかりに分類してそれが養う能力を分析した部分は圧巻だ。個人的にはテストをモチベータにしてコースをデザインしていくほうがやりやすいので、この本は大変参考になる。