まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

AIについての三冊

「AI・ロボットの倫理」を扱う授業を行う関係でAI関係の本をいくつか読んだので紹介しよう。わたしが読んだのはAIを自分で作ったり活用する本(例えば機械学習のしくみを学ぶ本)ではなくて、テクニカルな詳細にはたち入らずにAIの歴史やAIの問題を紹介する「文系的な」本。

Artificial Intelligence: What Everyone Needs to Know

Artificial Intelligence: What Everyone Needs to Know

  • 作者:Kaplan, Jerry
  • 発売日: 2016/10/03
  • メディア: ペーパーバック

英語の本で恐縮だが、AI研究の歴史や現状、哲学や法、社会のインパクトについて信頼できまとまった知識を得る上ではこの本が一番よい。著者は経歴を見る限りはAIとその周辺について内側(AI側)と外側(HPS・科学論)から研究してきた人なので、一方に偏らないバランスの取れた見方が学べる。また著者自身の見方もバランスが取れており、「シンギュラリティ!」といってAIの発展を煽るのでもなく「ディストピア!」といって暗い未来を描くわけでもない(実際著者はシンギュラリティが到来するのは十分先で現時点で心配するには及ばないが、AIが社会に負の影響を与える可能性はあると考えている)。英語も読みやすいし、150頁程度なので、ゼミなどで読む時の候補になるだろう。

AI社会の歩き方―人工知能とどう付き合うか (DOJIN選書)

AI社会の歩き方―人工知能とどう付き合うか (DOJIN選書)

  • 作者:江間 有沙
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

この本も上の本と同じように、AI研究周りの話題をまんべんなくカバーしている。上の本にない特徴としては、著者がSTS科学技術社会論=科学・技術研究と社会の間に生じる問題について考察する)の研究者であり、上の事柄に加えて「AI研究者コミュニティ」「ユーザー」「政府関係者」などAIにまつわる人々がどう考えているのかにも焦点が当たっていることである。また最終章ではSTS研究者としての著者の役割(「地図作り」「橋渡し」)を説明しており、外野からはなかなかよくわからないSTSという分野の解説にもなっている。

AIの進歩を示す近年の典型例の一つは将棋ソフトの展開である。この本は数年前の最強将棋ソフト「ポナンザ」の制作者が、将棋ソフトの進展を例にしてAIの進歩を解説した本。上の二つの本に比べるとAIの技法にほんの少しだけ触れているが、記述はわかりやすい。またこの本の特筆すべきところは、将棋を題材にして現在のAIが不得意なところ(ある局面で方針を決めて、それに沿って最善手を探索したり読みを入れること)を述べている点である。ただ将棋や囲碁が題材になっているので、それらを全く知らない人は楽しめないかもしれないが、そうしたことに馴染みのある人は楽しんで読めるだろう。