引っ越し後日本語の本を読む機会が増えたので、ここ最近読んだ本の感想を三〜十行で。
脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ
- 作者: ゲアリーマーカス,鍛原多惠子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/01/01
- メディア: 単行本
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認知心理学における二重過程論に基づいた心の働きに関する啓蒙書。これによれば、ヒトの心は二つのプロセスがいわば「接ぎ木」されてできたシステムである。一方の反射型のプロセスは他の動物と共通するような祖先型のシステムで、感情やわれわれがさまざまな偏見やバイアスに影響されるとき働いているとされるシステム。もう一方の熟慮型のシステムはヒトの進化の中で独自に発展したシステムで、バイアスにとらわれずに問題への解決策を熟考するときに働くシステム。たとえば外国人について考えるときに、「あいつは○○国出身だから○○だ」とステレオタイプに従った推論をするのが反射型システムで、「いやいや○○国人にもいろいろな人がいるかもしれない」とさまざまな証拠を比較考量して判断を下すときに働いているのが熟考型システム。この枠組みの助けをかりてマーカスは記憶や幸福、快楽といった心の側面をこの二つのシステムが接ぎ木された不格好なシステムとして描く。紹介された研究はおもしろく、最終章のアドバイスは投資や買い物といった決断をする際には役に立つだろう。ただし、著者は二重過程を進化の産物だとしているが、なぜそう思えるのかという説明はほとんどない。
政治をするサル―チンパンジーの権力と性 (平凡社ライブラリー)
- 作者: フランスドゥ・ヴァール,Frans De Waal,西田利貞
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1994/06
- メディア: 新書
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チンパンジーの行動研究の古典。オランダの動物園におけるチンパンジーの集団の観察記録。チンパンジーが集団内の権力を奪取・維持するために、連合・欺き・和解・干渉などの人間にしか見られないと考えられてきた「政治」的行動を取ることが明らかになった。本書はそうした「政治力学」を記述する。
- 作者: スタニスラスドゥアンヌ,Stanislas Dehaene,長谷川眞理子,小林哲生
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
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数学の心理的基盤についてのとてもおもしろい啓蒙書。著者は数学者から転じた認知心理学者。ヒトには数に対する直観的な把握を可能にする「数覚」があることを主張する。しかし、この数覚は数字をある種の量に変換して表象するので、われわれの数表象には大きさの効果や距離の効果がみられる。
人を惹きつける「ことば戦略」 ことばのスイッチを切り替えろ!
- 作者: 東照二
- 出版社/メーカー: 研究社
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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テレビのニュースキャスターから特攻隊員の手紙まで幅広い題材から、人を引きつけることばの使い方を「コードスイッチング」をキーワードにして解説した本。コードスイッチングとは、一人称/三人称、方言/共通語、情報伝達/感情共有といった語りのもつモードを頻繁に交互に変えていくこと。著者はこうしたコードスイッチングが、小泉純一郎の演説から細木和子の人生相談ショーまで、コミュニケーションを効果的にするのために用いられていることを例示する。となると、読者もこの技法を応用して人を引きつける話がしたくなるわけだが(著者もこの技法を使って後書きを書いている)、この本のよいところはコードスイッチングの実例がたくさん紹介されていることで、読者は応用がしやすくなっている点だ。その反面、「コードスイッチング」とはなにか、どうしてそれが有効なのか、といった掘り下げはほとんどなされていない。
- 作者: 東照二
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/04
- メディア: 単行本
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オバマのシンデレラ・ストーリーにことばの面から迫った書。オバマにはWe(聴衆を巻き込む)・楽観主義・未来志向というリーダーにふさわしい資質があることを、彼の演説や討論におけることばから解説する。またフレーミングのうまさも。しかしこういう解説を読むと日本の政治家の言語技術のへたくそさにため息が出る。日本の99%の政治家はオバマはもちろんマケインにも遠く遠く及ばないのだ。