まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

ぼくはこんな本を読んできた(ここ一ヶ月で)

引っ越し後日本語の本を読む機会が増えたので、ここ最近読んだ本の感想を三〜十行で。

脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ

脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ

認知心理学における二重過程論に基づいた心の働きに関する啓蒙書。これによれば、ヒトの心は二つのプロセスがいわば「接ぎ木」されてできたシステムである。一方の反射型のプロセスは他の動物と共通するような祖先型のシステムで、感情やわれわれがさまざまな偏見やバイアスに影響されるとき働いているとされるシステム。もう一方の熟慮型のシステムはヒトの進化の中で独自に発展したシステムで、バイアスにとらわれずに問題への解決策を熟考するときに働くシステム。たとえば外国人について考えるときに、「あいつは○○国出身だから○○だ」とステレオタイプに従った推論をするのが反射型システムで、「いやいや○○国人にもいろいろな人がいるかもしれない」とさまざまな証拠を比較考量して判断を下すときに働いているのが熟考型システム。この枠組みの助けをかりてマーカスは記憶や幸福、快楽といった心の側面をこの二つのシステムが接ぎ木された不格好なシステムとして描く。紹介された研究はおもしろく、最終章のアドバイスは投資や買い物といった決断をする際には役に立つだろう。ただし、著者は二重過程を進化の産物だとしているが、なぜそう思えるのかという説明はほとんどない。

政治をするサル―チンパンジーの権力と性 (平凡社ライブラリー)

政治をするサル―チンパンジーの権力と性 (平凡社ライブラリー)

チンパンジーの行動研究の古典。オランダの動物園におけるチンパンジーの集団の観察記録。チンパンジーが集団内の権力を奪取・維持するために、連合・欺き・和解・干渉などの人間にしか見られないと考えられてきた「政治」的行動を取ることが明らかになった。本書はそうした「政治力学」を記述する。

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

数学の心理的基盤についてのとてもおもしろい啓蒙書。著者は数学者から転じた認知心理学者。ヒトには数に対する直観的な把握を可能にする「数覚」があることを主張する。しかし、この数覚は数字をある種の量に変換して表象するので、われわれの数表象には大きさの効果や距離の効果がみられる。

人を惹きつける「ことば戦略」 ことばのスイッチを切り替えろ!

人を惹きつける「ことば戦略」 ことばのスイッチを切り替えろ!

テレビのニュースキャスターから特攻隊員の手紙まで幅広い題材から、人を引きつけることばの使い方を「コードスイッチング」をキーワードにして解説した本。コードスイッチングとは、一人称/三人称、方言/共通語、情報伝達/感情共有といった語りのもつモードを頻繁に交互に変えていくこと。著者はこうしたコードスイッチングが、小泉純一郎の演説から細木和子の人生相談ショーまで、コミュニケーションを効果的にするのために用いられていることを例示する。となると、読者もこの技法を応用して人を引きつける話がしたくなるわけだが(著者もこの技法を使って後書きを書いている)、この本のよいところはコードスイッチングの実例がたくさん紹介されていることで、読者は応用がしやすくなっている点だ。その反面、「コードスイッチング」とはなにか、どうしてそれが有効なのか、といった掘り下げはほとんどなされていない。

オバマの言語感覚―人を動かすことば (生活人新書)

オバマの言語感覚―人を動かすことば (生活人新書)

オバマのシンデレラ・ストーリーにことばの面から迫った書。オバマにはWe(聴衆を巻き込む)・楽観主義・未来志向というリーダーにふさわしい資質があることを、彼の演説や討論におけることばから解説する。またフレーミングのうまさも。しかしこういう解説を読むと日本の政治家の言語技術のへたくそさにため息が出る。日本の99%の政治家はオバマはもちろんマケインにも遠く遠く及ばないのだ。