まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

ハトとヒト、どうして差がついたか...慢心、環境の違い

最近ためしてガッテンでも取り上げられたモンティ・ホール問題だが、ハトの方がヒトよりもモンティ・ホール問題をよく学習できる(かも)という論文を見つけた*1

モンティ・ホール問題とは以下のようなものだ。

 あなたはクイズ番組に出演します。司会者はあなたにA,B,Cの三つのドアを示し、そのうちの一つに商品が隠れているといいます。このゲームでは、あなたは選択のチャンスが二回あります。つまり、あなたがドアを指さし最初の選択を行うと、司会者は残りのドアから商品のないドアを開け二択にして、最初の選択を変えるかどうか聞くのです。今回は、あなたは最初の選択でAのドアを指さしたところ、司会者はBのドアを開けて商品がないことを示しました。司会者は「今なら最初の選択を変えて、Cのドアを選んでもいいですよ」と言いました。あなたならどうしますか。

  1. Aのドアを選ぶ(ステイ)
  2. 選択を変えて、Cのドアを選ぶ(スイッチ)


よく知られているとおり、多くの人は両選択肢は同じ確率(あるいはステイする方が商品がもらえる確率が高い)と考えるが、実際はここで選択を変えて別のドアを選ぶ方が商品を得られる確率が高くなる(詳細は上のリンクやウィキペディアを参照)。しかもこの回答は直感に反しているせいか、説明を聞いても納得できない人が多い。ではこの問題をハトに解かせるとどうなるだろうか。

ハト>>>>>【越えられない壁】>>>>>ヒト?

この実験では、モンティ・ホール問題を(文章を使わずに数学的構造を保存したまま)見せて、ハトにどちらのドアを選ばせる。こうしたトレーニングを1日10回から100回、30日間かけて行った結果が次のようになる。

1日目 30日目
ステイ 64% 4%
スイッチ 36% 96%

最初はハトは同じような確率でステイとスイッチを選んでいたが、30日目の訓練では、見事に学習し、90%以上のハトが正しい答えを選択できるようになる。

ではヒトについてはどうか。著者たちは大学の学部生にもモンティ・ホール問題を文章を使わずに提示し、ステイとスイッチのどちらかを選択させた。訓練は200回行われた(つまり200問解いた)。はじめの50回と最後の50回でどのくらい正答率が上がっただろうか。

はじめの50回 最後の50回
ステイ 43% 34%
スイッチ 57% 66%

これを見るとわかるように正答率は余り上がっていない。もちろんハトの方がヒトよりも訓練した回数が多いので単純に比較はできないが、著者はヒトについては10回ごとの正答率のデータも提示し150回を超えた頃から正答率の上昇が余り見られないことを指摘し、訓練回数の大小はあまり問題にならないだろうということを示唆している。

古典的確率と経験的確率

著者はこの原因として確率計算を行うときの二つのスタイルについて述べている。一つは古典的確率で、アプリオリな状況分析から具体的な確率の値を導き出すやり方だ。たとえばフェアなサイコロを振ったとき1がでる確率について「どの面についても、それがでる確率は1/6、だから1がでる確率も同様に1/6だ」と考えるのが理論的確率だ。これに対して実際にサイコロを何回も振って、たしかに1/6の試行で1の目が出るということを観察して理解するのが経験的確率だ。

著者はこの区別とヒトとハトの行動が平行していることを示唆する。ハトがスイッチの方がよいことを学習するのは、三つの場合に場合分けしてそのときどうなるかを理論的に考えて結論を出しているからではない。むしろ単純にスイッチの方がエサがもらえる場合が多いので、自然にスイッチの方にスイッチしていったのである。これに対してヒトはあくまで理論的確率に基づいて行動を決めようとするのでハトのように学習することはない。問題は理論的確率における推論に誤りがあるため、結果としての選択も最適なものではなくなってしまうのである。

*1:Herbranson, W.T., Schroeder, J. (2010) Are birds smarter than mathematicians? Pigeons (Columba livia) perform optimally on a version of the Monty Hall Dilemma. Journal of Comparative Psychology 124(1):1