ソーバー先生の本
Evidence and Evolution: The Logic Behind the Science
- 作者: Elliott Sober
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2008/04/21
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 1人 クリック: 27回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
この章で扱っているのは、主に証拠と仮説の関係である。手元に仮説があり、その仮説を実験なり観察なりに基づいてテストするというのが問題となる状況だ。これは科学哲学で確証の問題といわれてきたものと重なる。
結核検査の例を考えてみよう。Sさんが結核の検査を受けて、陽性の反応が出たとする。ここでの仮説と証拠は
ということになるが、両者の関係はどのようになるだろうか。
ソーバーは、これについて考える際にはRoyallの本
- 作者: Richard Royall
- 出版社/メーカー: Chapman and Hall/CRC
- 発売日: 1997/06/01
- メディア: ハードカバー
- クリック: 11回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 証拠は何を言っているか
- われわれは何を信じるべきか
- それを受けてどう行動すべきか
こうした問は一応互いに独立に答えられる。たとえば、(2)ある仮説を受け入れることを決めたとしても、(3)それについてどう行動すべきかについては、その仮説が正しい場合にどういう効用をもつかに左右される場合がある。病気の例でいうと、Sさんがある病気であるという仮説の確率が高いことがわかったとしても、ではどうするべきか(Sさんが、あるいは公的な機関が)というのは別の問になる。これはたとえばその病気の種類によって健康に与える影響が異なるからである。その病気が風邪ならば公的機関の出る幕はないだろうが、結核に感染しているならば、Sさんは隔離されなくてはならないだろう。
また、(1)と(2)の問についても独立に考えることができる。統計学の哲学における、ベイズ主義という立場では、ある証拠が仮説に不利であっても、そのことがその仮説を直ちに捨てるべきということを意味しない場合がある。その仮説にはそれを支持する膨大な証拠がほかにあるので、不利な観察が一つぐらいあるだけではその仮説の地位に揺るぎがない、というのがひとつの場合だ。相対性理論やダーウィン進化論のような確立した科学理論を思い浮かべるとよいだろう。こうした場合、ある証拠がある仮説に不利かどうかということと、われわれがその仮説を棄却するべきかどうかということは別問題になる。
ソーバーは、この章で検討するいくつかの立場――彼は主に、ベイズ主義、尤度主義、頻度主義(フィッシャー、ネイマン・ピアソンおよびAIC)を検討している――は、それぞれ異なる問に関わっていると述べる。例えばいま述べたように、ベイズ主義の立場は主に(2)の問に関わるのに対し、ある証拠に対する仮説の尤度(P(e|H))を比べる尤度主義と呼ばれる立場は、(1)の証拠と仮説の関係を明らかにすることを目指しているといえる。こうした目標の違いがそれぞれの立場を理解するときに重要になってくる。