まとまり日記

私はこういうときでも自分がいじけなかったこと、力むことなくそういう風に育ったのが母への感謝なのである。これは大きかった。恥ずかしさの容量が大きいのは強いのだ。見栄を張らないで生きること、これは何よりも大きな糧である。(森信雄)

コンピュータのしくみ・歴史についての五冊

わたしはコンピュータ科学の学部に勤めているので、科学史の授業でコンピュータ史を扱った。わたしはコンピュータの歴史やしくみには全くの素人だったので、その際にそこそこに本を読まなくてはならなかった。その中から役に立ちそうなものものを紹介する。

コンピュータの歴史としくみについて最初に読む本としてはこれがもっともおすすめできる。定評ある著者によるストーリー仕立てかつ図表が多数できわめてわかりやすい。難易度も初学者向けに抑えられている。また専門家からのチェックを受けており内容についても信頼できる。プログラムをぱらぱらマンガ的に表現したり、チューリングマシンの作り方を説明したり工夫が光っている。巻末には次に読む本の紹介もあってステップアップも容易。

CODE コードから見たコンピュータのからくり

CODE コードから見たコンピュータのからくり

  • 作者:Charles Petzold
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

コンピュータのしくみについて次に読む本としては、上の本に紹介があったこれがよい。この本は、コンピュータについて全く何も知らないところからコンピュータの原理を一歩一歩(本当に一歩一歩)導入して、ついには現代的なコンピュータのしくみを(原理的なところについては)大体説明してしまう。その分ついていくのが結構難しいところもあり、わたしも後半は結構流し読みになっている。ただし歴史についてはそれほど書いていない。わたしの場合コンピュータの歴史を教えるといってもコンピュータのしくみについてある程度のことを理解していないと問題があったので読んだが、コンピュータの歴史自体を知りたい人には優先順位は下がるかも。

この本はコンピュータの開発史の通史。ただし著者は科学史の専門的な訓練を受けた人ではないので、もしかしたら信頼性に疑問があるかもしれない*1。とはいえこの本は著者がそれなりの量の一次文献・二次文献に当たっていることがわかるので、信頼性の点はそれほど悪くないのではないかと思う(他の本で勉強するとちょっと不満が出てくるところもあることはあるが)。内容はバベッジENIAC~EDSAC当たりまでのコンピュータ開発史。この本は題名の通り「初めてのコンピュータはいつ誰が創ったのか」という問いを軸に進んでいくような、ある意味「哲学的な」歴史の書き方なので、わたしが授業を立てる際にも話の筋を組み入れやすかった。

チューリングマシン説明できますか?

チューリングマシン説明できますか?

計算機歴史物語 (岩波新書 黄版 233)

計算機歴史物語 (岩波新書 黄版 233)

  • 作者:内山 昭
  • 発売日: 1983/06/20
  • メディア: 新書

これら二冊の本も専門の歴史家が書いた本ではないが、コンピュータ史で出てくるいろいろなマシンのしくみを細かく説明しているので、授業で説明しないといけない時に役だった。前著はパスカリーヌや階差機関・解析機関からENIACのリングカウンターまでを扱い、後の本は19世紀以前の計算器を古代のそろばんからパスカリーヌまで説明する。

*1:わたしが科学史・科学哲学専攻の大学院で学んだことの一つは、「科学の歴史について確かなことを知るためには大変な労力・懐疑心・注意深さが必要で、現場の科学者が片手間に行ったものは疑いの目をもって見る必要がある」ということである。